女性専用風俗 東京秘密基地本店 (出張専門) | 出勤6日目〜閉鎖空間(前編)〜

NAGARU(ナガル) 出勤6日目〜閉鎖空間(前編)〜
 ふいに世界が本質を見せる瞬間がある。
 そのとき時間は静止して、色が、形が、成り立ちがいっぺんに知覚されるから、わたしは決まって目頭が熱くなり、雫が頬を伝うのを感じる。それが母親の葬式でも流れることがなかった涙というものなのかどうかは、よくわからない。私のそれは多くの人が涙と呼ぶものと比べて頻度も量もずいぶん違うのだ。
 
 エレベーターのボタンに触れたときだった。なんの変哲もない横並びの三角形が、実に奇妙で生々しいものに思えた。サンカクケイ。三つの角を有する記号。ひとたび気になりはじめると、エレベーターのボタンはそれまで平然と担っていた用途目的から唐突に切り離され、三つの角は脳の襞にぶつかり、意識の奥へ奥へと吸い込まれる。
 握りしめた履歴書に貼り付けられた証明写真、四角形。
 いま居るエレベーターという閉鎖空間、直方体。
 鞄に入っている先の丸くなった鉛筆、六角形。
 多角形はどこから円になるのだろう。夢中で遊んだ日の夜のように、気付くとすでになっているようなものなのか。
 正四十八角形を想像し、そして―――
 もうやめよう。
 
 目の前のことに集中しよう。思考に蓋をする。たしかにいまの私の本位ではないが、世界を包摂するより大きな私がそう欲している。
 証明写真の中の丸顔の肖像。それこそがいま集中すべき問題だ。
 口角を上げる。
 エレベーターが減速するのを感じる。
 深呼吸。
 
 面接会場に指定されたのは、地下鉄の改札からもっとも遠い出口の先にある小綺麗なビルだった。10階建てくらいだろうか。想像よりも小さい社屋だと思った。

 辰興コーポレーションの最終面接を受けることになったと伝えると、知り合いたちは口を揃えて「すごい」「おめでとう」と賛辞をくれた。連日の緊張のせいもあり、まだ内定を貰ってもいないのに私は朝から随分と冷静だった。ハイになる、というやつだろう。
 
 エレベーターのドアが開くと、すぐ目の前に社長室の扉があった。慣れというのは恐ろしいもので、いつのまにか入室していたことに自分でも驚く。
 部屋の奥にはスーツ姿の初老の男が座っていた。扉が閉まると、なぜか周辺の空気だけが世界から切り離されたような気がした。
「小さい社屋で驚かれたでしょう?」
「とんでもない」
「ローマは一日にして成らず。社名にもある通り、やがて弊社は地上を興し、昇天する龍のように大きなビルを構えることになるのです。どうぞお掛けください」
 失礼します、と私は練習通りの笑みを浮かべ、椅子に浅く座る。我ながら上出来だ。
「本日はよろしくお願いいたします。改めて私の履歴書と、小論文を持参しました。御社は第五世代ヒューマノイド・インターフェースのシリコン表皮において高いシェアを有しており、国際競争力のある企業ということで興味を持ちました。今回提出する論文は、暴走アンドロイドのリコール問題、およびリース割合の増加による社会的影響について、私なりの見解を述べたもので」
「そんなものは必要ありませんよ」
 男は私の話を遮るように手を振った。男は立ち上がると、椅子の周りを何度か歩いてから机に手をついた。
「はじめて死を意識したのはいつですか?」
「シ?」
「ええ、死です」



※この物語はフィクションです。

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