女性専用風俗 東京秘密基地本店 (出張専門) | 出勤3日目〜ある雨の日〜

NAGARU(ナガル) 出勤3日目〜ある雨の日〜
 めちゃくちゃ気持ちいいぞ、と誰かが言っていた。
 だから、自分もやろうと決めた。​​​​
 4月8日が大きな口を開け、またひとつ1を余計に含み終えた頃に降り出した雨は、瞬く間に東京を水の都へと様変わりさせていた。

 都内某所にある秘密基地の待機所。雨粒が窓を濡らし始めた頃、誰かが「屋上で水浴びをしよう」と言い出した。若いセラピストたちが集まる待機所には、どこが男子校のような雰囲気がある。

 その日は予約の案件がキャンセルになり、僕は待機所の奥で本を読みながら、張っていた気が綻んで、うとうととしていた。

 屋上へと続く階段の先には分厚い鉄製の扉があり、当然鍵がかかっている。
 先輩セラピストのYさんは、ここに来る前に色々な仕事を転々としていて、錠前屋でも働いていたことがあるらしい。
「行ってきなよ。人が来ないか見ててやるから」
 Yさんは慣れた手つきでテンキーを操作し、1分もかからずロックを解除してしまった。
 ぎい、と重い音を立てて鉄製の扉が動く。少し埃っぽい、錆びた鉄の匂い。 
 扉の向こうは霧に包まれたようにくすんで白くなっている。遠くでオートバイがギアを上げながら水たまりを跳ねていく音がした。鼓動がにわかに速くなる。すぐそこで東京が裸になっていた。
 僕は我慢できず、服を脱ぎ捨てて、雨の屋上へと走り出た。
 水浸しのコンクリートはほんのり暖かく、暫く忘れていた生々しい感触が足の裏から伝わった。髪に溜まった水が溢れて、零れ落ちていく。頬から顎へ、首元から背中へ。小さかった頃、祖母に連れられて行った公園の噴水広場の情景が頭を過った―――

 ぶぶっ。
 スマホに通知が入る。新規様からのお問い合わせ。新たなリピーターを獲得する千載一遇のチャンスだった。

 反射的に僕は脱ぎ捨ててあった服を拾い上げ、階段を駆け下りて、内勤さんの居る事務所の扉を開ける。
「すみません!遅くなりました」
「遅い。もう別の子に回しちゃったよ」
 未だ収まらない高揚感と落胆とで、僕はどんな顔をしたら良いかわからなかった。とりあえず、笑ってみる。
 内勤のお姉さんは目を細め、ずぶ濡れの僕を怪訝そうに眺めている。
「ところで、君なんで裸なの?」
 かくかくしかじか、事のあらましを説明したが、どうにも話が噛み合わない。

 内勤さんを連れて階段を上がってみた。もちろん服を着たあとだ。そこには別のテナントが入る部屋の扉が並んでいるだけだった。
 聞けば、Yさんは夕方から泊りがけでお客様対応中で、屋上へと続く階段はこの建物には存在しないらしい。



※この物語はフィクションです。

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