女性専用風俗 東京秘密基地本店 (出張専門) | ギャンブルについて(フィクション)

YURITO(ユリト) ギャンブルについて(フィクション)
「ギャンブルに行くから付いてきてくれないか」
そう言われて付き添った。
人生でそんな経験はないから、ワクワクした。
当たるイメージを育てるために、ということで、まずはカフェで茶をしばきながら、ゲームのルールをYouTubeで学んだ。ルール自体は簡単で、BETさえ最初にしてしまえば、決着までは自動で行われるタイプのゲームだった。
カフェを出た後に、タクシーを拾おうとしてしばらく歩き、やっと通りかかったタクシーに乗車拒否をされ、友達は「あれ本当にやっちゃいけないやつ。タクシー会社にクレーム入れたら後日直接謝りに来るから。」と真顔で言っていた。
その後捕まえたタクシーの運転手は若い女性だった。友達はその運転手から領収書をせびっていた。「領収書あるだけください。税金やばいんで。」って言ってた。

満を持してカジノへ。
身分証を確認され、誓約書にサインをしてから入店。
席に着き、友達はその日の軍資金30万円を全てスタッフに渡した。
友達は界隈では【負けすぎて可哀想】ということで有名らしく、
スタッフから「あっ、また、どうも。今日こそは勝ってくださいね。」みたいな感じで応援されていた。
負けすぎて、スタッフから「もうやめましょうよ。」と言われることがあるらしい。それでよくもまぁ通い続けるなぁ、と感心した。
ゲームが始まり、友達はいきなり数万単位で賭け始めた。
ゲームのスピード感は体感かなり早くて、ものの10分で友達は8万円ほど負けた。
友達は「え。どうしようやばいやばい。」としきりに言っていた。
ギャンブルの無情さに僕はまずドン引きした。
ついでに言えば最初からBETの金額をブッ飛ばす友達にも少し引いた。1時間で30万円全部溶かすペースだった。

その後、店の偉い人が出てきて、付きっきりでコツとか教えてくれて、勝ったり負けたりで、だんだんお金も回収できたり、できなかったり、とまぁ、元々想像していたギャンブルの感じになった。
その頃には僕も流れの中でルールを把握し、友達とスタッフと一緒になってあーだこーだ言って楽しんでいた。
「そこに賭けるのはちがう!」
「絶対こっちの方がいい!」
など。
僕の印象では、予測や願掛けみたいなのはあるけど、結局はほぼ運ゲーなのと、コツさえわかればあまり大損はしないようなゲームだった。
ほんと、「こんなに楽しく夢中になれることがあったのか」と思うほど、充実した時間だった。
友達とハラハラしながらゲームに興じるのは楽しかった。応援しているチームのワールドカップの試合を観ている気持ちと近かった。
ゲームの結果に仲良く一喜一憂し、ハイタッチをしたり、「うーわ」「まあ次だね。」みたいに励ましたりした。
今度は自分の金でギャンブルするのもアリかもな、と本気で思ったほどだ。
開始から3時間ほどは、まあそんな感じで楽しく進んだんだけど、集中力が切れたのか、ツキがなくなったのか、気付いたら友達は15万円負けてた。
「勝てる気がしなくなった」みたいなことも言ってた。
店側の提案で、一度ゲームを辞めて、他の店に行くことになった。
店の偉い人もそのタイミングで退勤だったので、一緒に行くことになった。
店を変えてからも、不穏な空気は続いており、時々は勝つものの、全体的な金額はやはり徐々に減っていった。
友達は普段はおしゃべりで賑やかで面白くて、友達思いで人に対してあまり怒らない、楽しそうに笑う良い奴だったが、
負けが込んでくると無表情・無口になり、虚な目でゲームの行く末を見つめるだけになった。
たまに口を開いたかと思えば「うわやっぱ負けたよ」「全然当たんねーじゃん」「っざけんなよ」と独り言をつぶやく。
僕や前店の偉い人がBETのやり方に口を出そうもんなら、

「黙ってろよ」
「言うこと聞いて損した。まじ最悪。」
「はぁ?〇〇万負けてんじゃん。うざ。」
「うるさい。死ね。」
「やめてくれる?外からギャーギャー言うの。狂わされてんだけど。」
と舌打ち混じりに真顔で言ってくる。しかもその時も画面に集中しているため、目は合わない。
友達はずっとタバコを吸っていた。
普段、人に対してそんな言葉は絶対に使わない人だったから、本当に驚いた。
驚いたと同時に、すごく悲しくなった。
僕がその場にいたことによって、友達は不快感を丸出しにしていた。
友達はずっとタバコを吸っていた。
たしかに、金かけてない僕みたいなギャラリーが、無責任にギャーギャー騒ぐのはムカつくだろうな、と反省した。
自分のせいで、友達が不機嫌になってしまうのは怖いし、申し訳ない。
楽しく幸せに過ごしてほしかった。
普段は一緒にいるだけで、LINEや電話をするだけでとても楽しいから。
「この人とだったら何をしてても楽しいだろうな」と本気で思える人だった。
ギャンブルは違ったみたいだ。
友達はすごくつまらなそうに、ただただ自分と周りの人間に対して毒と煙を吐き続けるゴミのような人間になってしまっていた。
友達は前に、「私とギャンブル行った人は、みんな私のことを嫌いになる」と言っていた。
(そんなわけないだろう)と思っていたが、納得できてしまった。
誰も、こんな人間と一緒にいたいとは思わない。一緒にいても全く楽しくない上に、哀しい気持ちにさせられるからだ。
友達はずっとタバコを吸っていた。
お金と時間を捨てて、無気力に意味のない作業に没頭し、幸せになる権利を自ら放棄しているように見えた。
あまりにも痛々しくて、見ていられなかった。
店側が「もう、やめましょうよ。意味ないですって。」とワンピースのコビーさながらに進言する気持ちも非常に分かった。
友達の残金が10万円を切った段階で、会話もなくなっているため眠くなり、寝た(見学人はすごく自由)
2時間後に起きると、友達はまだゲームを続行していて、残金は1万5千円だった。
BETの金額は、ゲーム序盤は2万円がアベレージだったが、その時は1500円〜3000円と、小学生の小遣いのような金額で、ちまちま勝ち負けを繰り返していた。もはや、一発逆転、起死回生の気概さえ失ったようだった。
僕の友達は、相変わらず死人のような目で、猫背になり、ずっとタバコを吸っていた。
地獄だと思った。
友達はもう、狂ってしまったのだ。ギャンブルをする前の、明るく、優しく、面白い友達にはもう会えないのか、と思うと、哀しくてさみしくて、逃げ出したくなった。

「帰るわ」と告げた。
友達は「え、帰るの」「なんで」
とこっちを見ずに返事してきた。
友達はずっとタバコを吸っていた。
色々言いたいことはあったけど、なんて言えばいいか分からなかった。
「もう見ていられない」とだけ言った。
僕は友達の方を見ることができなかったが、友達も、こっちを見ているような気配はなかった。

1人で店を出た。
仲良くなった友達を1人、失った。
やけに晴れている朝だった。

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