女性専用風俗 甲府秘密基地 (出張専門) | インスタントラブストーリー 【歪】

YUYU(ユユ) インスタントラブストーリー  【歪】
玄関が開く音で僕は目が覚めた。とっさにジャスミが来た。そう思った。僕のアパートを合鍵で開けたこの女性は、市川あやめ(イチカワ アヤメ)だった。あやめが部屋に入るなり、凄い勢いで愚痴を話す。家族の事、仕事の事、そして彼氏の事。あやめは、会う度に、いつも同じ事を言う。

「東京に来る用事があったから、ついでに来ちゃった。」

 僕はいつも、その用事とは何なのかは聞かなかった。もし聞いたら、この関係が壊れてしまいそうで。それほど脆くて、それほど大切な関係だった。そしてあやめが、流し台に溜まった洗い物をしながら言った。

「ちょっとーあやのマグカップでコーヒー飲んだでしょーやめてよーめっちゃ黒くなってるー」

 そう言ってあやめがマグカップを見せる。ミッキーとミニーがキスをしているマグカップ。その中身は黒く汚れていた。マグカップの汚れなら落とせるのに。そう思いながら、あやめを見ていた。あやめは笑っていた。部屋に飾ってある写真と同じ笑顔で。二人は何が変わってしまったのだろうか?そんな事怖くて考えてこなかった。

 同い年の僕たちは、十八才から四年間付き合い、二人で、山梨から上京しこのアパートを借りた。この小さなアパートを借りた日にあやめが言った。

「ユユは夢を叶えるために東京に来たんでしょ?だったら、あやの夢も叶えてよ。」
「あやの夢ってなに?」
「あんたと結婚する事だよ。」

 嬉しかった。勝手に仕事を辞めて芸人になろうと東京に来た僕。そんな僕と結婚したいと言ってくれるあやめが。あやめが僕の隣にいるのなら、どんな事も絶対に成功できる、そう思えた。そして二人で次のあやめの誕生日に籍を入れる約束をした。市川あやめ、僕に愛をくれた世界でたった一人の女性。
しかし、このアパートに今住んでいるのは僕だけだった。彼女にフラレたのは、もう一年以上前の事。 僕をフッタ罪滅ぼしなのか、時間潰し程度の気持ちなのかは解らないが、四ヶ月に一度ほどこのアパートに突然来る。
 僕は、タバコに火を着けた。布団の中から、あやめが言う。
「タバコ吸ったら、こっち来て」

 このタバコを吸ったら、あやめを抱かなくてはならない。したくはなかった。付き合っていた当時は、肌を重ねる度に、
あんなにも熱をおびたのに。今は、肌を重ねる度に、冷たくて、あやめが帰ると布団が広くて、寂しさが色濃くなるだけだった。それでも、あやめがいつか帰ってくると信じていた。一年以上僕は、種の無い鉢植えに水をやり続けたのだろうか?。二年前なら、あやめが何を考えているのか全て分かった、しかし、今は…人形に話しかけているようだった。おままごとのような関係だったが僕はここから出れずにいた、部屋に飾ったあの写真のように。

  全ての服を脱ぎ、裸で布団に包まり少女のような笑顔で僕を見つめるあやめ。そして枕を抱きしめて僕に言った。
「女の匂いがする。この部屋に女入れたでしょ?」
 それは、ジャスミンが残した匂いだった。 

「ねぇ、気持ち悪いんだけど。」
「いいだろ、俺の家なんだから、」 
「二人で決めた家だから。え?彼女できたの?」
「あや、もう合鍵返してよ。」

 そんな事を言った理由は自分でもわからなかった。しかし、あやめがもう帰ってこない事が自分でも気づいていたんだ。そして、その理由の中にはジャスミンの存在もあったのだと思う。その言葉を聞いてあやめが言う

「意味分かんないから。この鍵私のだから。返さない。その女と付き合ってるの?」
「付き合ってないよ。」
「もうエッチしたの?」 
「したよ」
「良かったの?」
「良かったよ」
「私より?」
「そうだよ」
「そんなわけないから。どうしちゃたの?ねぇ?ねぇぇぇ?」

そう言いながらあやめが僕に近づき、裸のまま僕を後ろから抱きしめた。僕は黙ったまま、次のタバコに火を着けた。あやめが言う
「私が彼氏の話をしたから、怒ってるんでしょ?」
「怒ってないよ」

 あやめには怒っていなかった。ただ、この関係に疲れていた。昔はお互いに本音を話せる唯一の人だった。でも今は、本音だけが言えない関係。あやめ、僕が本音を言ったら、あなたを困らせますか?

そして、あやめは僕に顔を近づけ、僕のズボンに手を入れる。僕は言った。
「嬉しく無いから」

 自分でもビックするほどの、大きな声が出た。あやめが驚いた顔で僕を見た。僕と目が合っていた。しかし、あやめが何処を見ているのか分からなかった。あやめがビンタをされた子供のような顔になり僕に言った。
「ずるいよユユ。私に彼氏いるの知ってて抱いてたくせに。自分に好きな人ができたら....もう終わりなの?」
「いいから、鍵返せよ」
「ユユは私にそんな事言わないよ。絶対に言わないよ。」

あやめが大粒の涙を流しながら僕に言う

「その女がそんなに好きなの?」
「わからない」
「どうして私じゃダメなの?」
「わからない」
「ねぇ…わかならいってなに?…‥どうして私が別れたいって言った時に止めてくれなかったの。」
「あやに、幸せになって欲しかったからだよ。」
僕の言葉を聞いて、あやめが涙で裂けた喉で叫んだ
「ふざけないでよ・・・ふざけないでよ、これの何処が幸せなの…‥‥このマグカップも、まだとっといたくせに。この写真も…この写真も、なんでずっと飾っておくの。」

 あやめがマグカップを投げて壊し、写真を破った。

僕は知らなっかた。壊れてしまったのはあやめの方だった。

裸でいるあやめが、割れたマグカップで怪我をしないように、手を取りこたつまで連れて行こうとした。するとあやめが叫ぶ。
 「触らないで、、、、私わかってるから。まだ私の事愛してるんでしょ…」

 あやめが僕の顔を触り、涙で濡れたほっぺたと僕のほっぺたを重ねた。そして僕は言った。

「知らないよ」
「じゃあ、、、なんで泣いてるの?」
「なんで今日なんだよ。」

 この涙の訳は自分にもわからなかった。きっと他人が見たなら、一言で言い表してしまうのだろう、しかし僕には思う事が多すぎてわからなかった。
そして僕は言った。

「あの時、何で別れたいって言ったの?何で山梨に帰ったの?」

あやめが言った。

「辛くて」

僕が言う。

「何が?」 

あやめが苦しそうに黙って言った。

「満員電車が」   

あやめの言葉を聞いて僕は思った。止めていれば良かったと。そして呟いた。   

「満員電車かぁ…」     

そう呟いた。      

 涙が止まらなかった。芸人になりたいと、山梨を飛び出して勝手に東京に来た僕。そんな僕にあやめは付いてきてくれた。そんなあやめが別れたいと言った日に僕は理由も聞かなかった。あやめが出した答えを応援する。それが一番いいのだと
一人よがりに考えていた。二人の将来なのに。そのせいであやめはこんなにも苦しんでしまった。
付き合っていた当時は、あやめが何を考えているのか全て分かった。分かっていると錯覚していたんだ。知らない間にあやめを僕の小さな鳥籠の中に閉じ込めていた。いつからだろうか?あやめがどんな人なのか探す努力をしなくなったのは。僕はその事が今になって気がつき、涙が止まらなかった。あやめが僕の涙を指で拭い、僕の濡れた瞳に何度もキスをした。そんな自分が惨めだった。
あやめが僕に言う

「ユユが好きになった人ってどんな人?」
「……分からない」
「わからないって何?その人何歳?」
「知らない。」
「知らないの?何で知らないの?」
「聞いて無いから知らない。年齢も国籍も本当の名前も知らない」
「え?キャバクラとかお店の人なの?」
「違うよ。外国人の男の子。あの人の事は何も知らない。でも、あの人がいると自分が不思議と優しくなれるんだよ。これって…好きって事なの?」

「気持ち悪い」 

 あやめはそう言った。僕は「そんな事言うな」その言葉が口から出なかった。ジャスミンをかばってあげれない自分が悔しくて嫌いだった。あやめは続けて言った。   

「外人ってだけで気持ち悪いのに。男?意味分かんないから。本当に気持ち悪い。そんなの絶対に付き合っちゃダメに決まってるじゃん。幸せになれるわけないから。なに考えてるの?本当に気持ち悪い」

 その言葉は辛かった。他の誰でも無いあやめに言われるのは。親に言われるより辛かった。他の人から見たらそうなのだろう。しかし、あやめには理解して欲しかった。それと同時に、ジャスミンもこんな言葉を何度も浴びせられたのだ。そう思うと、ジャスミンが自分の話をしない理由が少し分かった。あやめが服を着てこたつの前に座る。あやめの向かいに僕は座った。痛い沈黙が長く続いていた。僕は、座っているのもやっとだった。暴力のような沈黙は指数関数的にその暴力性を成長させていた。   

 そんな時、家のインターホンがなった。ドアを開けると、ジャスミンが立ていた。

「これ食べる?」

 ジャスミンが嬉しそうにそう言って。僕に作ってきたお弁当を見せた。僕は「嬉しい」や「ありがとう」の言葉ではなく

「ごめんね、友達が来てるから今日は帰って。」

 そう言った。僕は焦っていた。この場所にジャスミンを入れてはいけない。今のあやめにジャスミンを合わせたらどうなるか分からない。きっと、マグカップが割れるだけではすまない。

居間の扉の向こうからあやめが言う。

「だれが来たの?」

僕は、「友達」そう言おうとした。その言葉を口に出さずに言い直した。

 「ジャスミン」          

それを聞いてあやめが言う。

「入れてあげたら?」

僕はジャスミンに聞いた。

「入る?」

 ジャスミンは何も言わずに部屋に入った。そして、こたつの前に座った。僕がジャスミンの向かいに座ると、あやめが僕の隣に座った。肩がピタリとくっつくほど近くに。重い空気が流れた。三人とも何も話さない。あやめがついたため息がさらにこの空気を雲らせる。一番短気なあやめが最初に言葉を出した。意地悪な声でジャスミンに言った。   

 「ユユの事好きなの?」        
 「ユユ?」       

あやめが不機嫌そうに言い直した。 

「この人のこと好きなの?」

ジャスミンは言った。          

「はい、とてもとても好きです。」

そんな事を恥ずかしげも無くストレートに言うジャスミンに、あやめが驚いた顔をした。あやめは少し黙って、声のトーンが高くなる。 

    「付き合いたいの?」
 「はい、ずーと一緒に居たいです。」        
 「何でユユの事好きなの?」        
 「優しいだから」        

その言葉を聞いてあやめの声が大きくなる。

「優しい人なんていっぱい居るでしょ。同じ国の人と一緒にいた方がいいんじゃないの?何でユユなの?」
「この人は、世界で一番優しいだから。」

 その言葉を聞いて急にあやめが黙って下を向いた。しばらくすると、あやめが真っ赤な顔になって、声を出さずに泣き出した。プライドの高いあやめが、僕以外の人の前で泣くのを初めて見た。
僕は驚いてそんなあやめを見ていた。僕はあやめが何で泣いているのか分からなかった。きっとジャスミンにはもっとわからなかった。慌てたジャスミンが大きな声で言う。

「え?何で?どうしたですか?」
ジャスミンが僕に言った。

「あなた可哀想よ。何で何もしないの。」

ジャスミンが慌ててあやめにハグをした。あやめが言った

「ありがとう大丈夫だから。いい、大丈夫」

そしてあやめがジャスミンに言った。

「これ、あなたにあげる。」

それはこの部屋の合鍵だった。そしてあやめは、涙を流したままこの部屋から出て行こうとしていた。玄関で靴を履くあやめに、僕は言った。

「あや、ごめんね。俺、勝手に東京に来ちゃって。」
「いいよ」
「いい人と幸せになってね 」         
「何処にもいないよ、そんな人」 

 そう言ってあやめはこの家から出て行った。窓からあやめが歩く後ろ姿を見ていた。少しずつ小さくなって、東京の人ごみの中に消えてしまった。僕がやっと見つけた一番綺麗な宝物が。そして僕は、あやめが破った写真をテープできれいに直して、ゴミ箱に捨てた。僕は泣いていた。もっと違う終わり方があってもよかったと。


 

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