9/5 22:28 UP! 人生初の、職務質問 YURITO(ユリト)(28)
人生で初めて、警察官から職務質問をされた。
ずっと憧れていたから嬉しかったのと、純粋に驚いたのとで、興奮してしまった。
ほっとくと忘れそうなくらい一瞬で終わったので、記録という意味で、簡単に書き記そうと思う。
ある日、僕は1人で近所を夜中に散歩していた。
夜中と言っても、0時から1時間程度だ。
夜の散歩は、たまにする。夏は暑くてなかなか行かないが、最近は夜なら涼しくて最高だ。
散歩をすると、よく眠れる。
ぼんやりした疲労と、狙い通りの心地よい眠気を感じながら帰路についていた僕は、イヤホンで霜降り明星のオールナイトニッポン(直近の放送のアーカイブ)を聴いていた。
道には人もいなかったし、内容もめちゃくちゃ面白かったので、歩きながら普通に声を出して笑って楽しんでいた。
すると、その笑った瞬間に、後ろから肩を叩かれた。
僕は本当に驚いた。
イヤホンにはノイズキャンセルの機能がなかったのに、足音には気づかなかったし、
何より、「自分は背後からの気配には敏感である」と自負していたので、文字通りの不意打ち。意識外からの攻撃だった。
肩を叩いてきたのは、「風林火山の山を担当しています!本田翼がタイプです!」みたいな、つぶらな瞳をした巨軀の坊主頭の男。
暑い中でもちゃんと制服を着ている、真面目そうな顔をした警察官だった。
格闘技をやる人特有の、つぶれて腫れたような耳をしている。
表情は柔和で、優しそうな人だな、という印象を受けた。
しかし、そのつぶらで優しそうな目からはどこか、「この男(僕のこと)を刺激しないように扱おう」という意思が感じられた。
イヤホンを外すと、
「お兄さん、ちょっといいですか。すぐ終わるので」
と訊かれた。
僕「はい、もちろんです!」
この時僕は、自分が職務質問されているとは思っていなかった。
なにか、事件があって、その目撃情報を聞かれたりするのかな、と思っていた。
調査にご協力をお願いします。てきな。
そんなのもう、喜んで!協力しますよ!なにがあったんですか!
そのくらい、なんにも罪の意識がなかった。
アラサーの男性がただ機嫌良く、夜道を1人で歩いていただけだ。
声を出して1人で笑っていたのを至近距離で見られたことは、恥ずかしいけども。
すると警察官が、なだめるように、
「お兄さんさっき、交番の前で、自転車停めてなかった??」
と言ってきた。
もちろん停めてない。
僕「...え、いや、停めてないですね?」
僕(本気で言ってんのかこいつ?ん?なんだ?どういうこと?)
と若干パニックになった。
たしかに交番の前は(細い道路を挟んでではあるが)、横切った。
しかしもちろん、自転車なんて乗ってないし停めてない。
なんなら最後に自転車に乗ったのなんて半年前くらいだ。
自転車は持っているが、ずっと屋根のない駐輪場に停めている。
そろそろ処分しなければならない。死ぬほど錆びているだろう。パンクもしているんだろうなあ。
などと考えていると、
「えっ、いや、あの、見て...たんですよ...。」
と、何やら確信を持っている様子。
白々しく、その場しのぎの、すぐバレる嘘を言ったのだと思われたのだろう。
「やっぱりそう来たかやれやれ」みたいな態度を取られた。
しかし僕としても、心当たりはないので
「いやマジで乗ってないっす!え、ポケットとか見ます?触ってもいいですよ?自転車のカギとか持ってないですもん!」
と少し早口になりながらポケットの中身を見せていった。かなり軽装だったから、楽な作業だった。
出しながら、
(アレ、でも、自転車の鍵を持っていないからって、“自転車に乗っていない証明”には、ならないか?
数字でロックするタイプのチェーン使ってるかもしれないもんな)
と一部冷静になりつつも、今自分にできる無罪証明はしておくべきだなと思って全て出した。
全部出しても、警察官は納得していない。
「だって見たんだもん」みたいな顔をしている。
トトロいたもん、と喚き散らかすメイちゃんを思い出した。
トトロは本当にいるかもしれないが、僕は自転車には触ってすらいない。
すると、警察官がもう1人やってきて(囲碁将棋の文田さんみたいな、優しそうなイケメン)、元からいた警察官と顔を見合わせ、
(ウン、さっきのはコイツで間違いないな)(ウン)
とアイコンタクトを交わしていた。やかましかった。
そして先ほどの調子で尋問が再開された。
なんなんだこれは。
目の前で行われた犯行の犯人を、警察官が二人揃って見間違えたとでも言うのか。それは果たして、あり得ることなのか?
ここでもっと冷静になっていれば、ミステリ小説によく出てくる、自分の推理をひけらかしたいキャラみたいに、
------------以下妄想------------
「飲酒運転を疑っているんですよね?
僕が酔っ払って自転車に乗ってて、交番が見えたから慌てて自転車を停めて、何事もなかったかのように歩いて帰ろうとしている風に見えたんでしょう?
でも僕は自転車には乗っていないし、お酒だって飲んでいません。
その自転車のところまで一緒についていってもいいですが、それが僕のモノであるという証明も、僕のモノでないという証明も、できませんよね?
唯一、自転車の鍵を僕が持っていれば、クロですけど。持ってないですし。
本当に身に覚えがありません。
なんなら、裸になってもいいですよ。
それか、カギを口から飲み込んで、胃に隠しているかもしれないですからね、嘔吐、しましょうか?
僕、できるんですよ。特技なんです。駅の汚い男子トイレを思い出すと、自然にゲ○吐けるんです。
なんでアレは、あんなに汚いんでしょうね。
やりましょうか?
僕のアヌスもお見せしますよ。ケツの穴に入れて隠しているかもしれないですから。
ご要望とあらば、喜んで披露します。
…最もフィジカルで、最もプリミティブで、そして最も...フィティッシュな、僕の菊門をねェ。」
-----------妄想おわり------------
くらいは言えたと思うんだけど、
冷静じゃなかった。
目の前で自分に絡んでくる警察官の人数が倍になると、善良な市民ならば誰だって狼狽えてしまうだろう。
実際僕は、気分が変に高揚して、「え、これってもしかして、職務質問ですか?えっすごい!人生で初めてです!」
と、イタすぎる素人になってしまったし。
(我ながらキモすぎて、後から猛烈に反省した。
こんなんじゃあ、月曜から夜ふかしのインタビューを受けることがあっても、確実にオンエアされないだろう。)
でも、本当にワクワクしていた。
自分に非がない、冤罪での職務質問なんて、なんてオイシイ体験だろうか。
結局、身に覚えもないのだし、自転車の鍵も持ってないし、何より僕がはしゃぎ出したので、
職務質問は終わった。
ごつい警官から何度も謝られた。
気分が高揚していた僕は
「こちらこそ、紛らわしくてすみません。ありがとうございました。」
と、つまらなすぎる受け答えをしてしまった。
後からまじで死にたい、恥ずかしい、と思った。
皆様も、急な職務質問をされた際には、冷静に、聞かれたことだけに答えてください。
おわり。
ずっと憧れていたから嬉しかったのと、純粋に驚いたのとで、興奮してしまった。
ほっとくと忘れそうなくらい一瞬で終わったので、記録という意味で、簡単に書き記そうと思う。
ある日、僕は1人で近所を夜中に散歩していた。
夜中と言っても、0時から1時間程度だ。
夜の散歩は、たまにする。夏は暑くてなかなか行かないが、最近は夜なら涼しくて最高だ。
散歩をすると、よく眠れる。
ぼんやりした疲労と、狙い通りの心地よい眠気を感じながら帰路についていた僕は、イヤホンで霜降り明星のオールナイトニッポン(直近の放送のアーカイブ)を聴いていた。
道には人もいなかったし、内容もめちゃくちゃ面白かったので、歩きながら普通に声を出して笑って楽しんでいた。
すると、その笑った瞬間に、後ろから肩を叩かれた。
僕は本当に驚いた。
イヤホンにはノイズキャンセルの機能がなかったのに、足音には気づかなかったし、
何より、「自分は背後からの気配には敏感である」と自負していたので、文字通りの不意打ち。意識外からの攻撃だった。
肩を叩いてきたのは、「風林火山の山を担当しています!本田翼がタイプです!」みたいな、つぶらな瞳をした巨軀の坊主頭の男。
暑い中でもちゃんと制服を着ている、真面目そうな顔をした警察官だった。
格闘技をやる人特有の、つぶれて腫れたような耳をしている。
表情は柔和で、優しそうな人だな、という印象を受けた。
しかし、そのつぶらで優しそうな目からはどこか、「この男(僕のこと)を刺激しないように扱おう」という意思が感じられた。
イヤホンを外すと、
「お兄さん、ちょっといいですか。すぐ終わるので」
と訊かれた。
僕「はい、もちろんです!」
この時僕は、自分が職務質問されているとは思っていなかった。
なにか、事件があって、その目撃情報を聞かれたりするのかな、と思っていた。
調査にご協力をお願いします。てきな。
そんなのもう、喜んで!協力しますよ!なにがあったんですか!
そのくらい、なんにも罪の意識がなかった。
アラサーの男性がただ機嫌良く、夜道を1人で歩いていただけだ。
声を出して1人で笑っていたのを至近距離で見られたことは、恥ずかしいけども。
すると警察官が、なだめるように、
「お兄さんさっき、交番の前で、自転車停めてなかった??」
と言ってきた。
もちろん停めてない。
僕「...え、いや、停めてないですね?」
僕(本気で言ってんのかこいつ?ん?なんだ?どういうこと?)
と若干パニックになった。
たしかに交番の前は(細い道路を挟んでではあるが)、横切った。
しかしもちろん、自転車なんて乗ってないし停めてない。
なんなら最後に自転車に乗ったのなんて半年前くらいだ。
自転車は持っているが、ずっと屋根のない駐輪場に停めている。
そろそろ処分しなければならない。死ぬほど錆びているだろう。パンクもしているんだろうなあ。
などと考えていると、
「えっ、いや、あの、見て...たんですよ...。」
と、何やら確信を持っている様子。
白々しく、その場しのぎの、すぐバレる嘘を言ったのだと思われたのだろう。
「やっぱりそう来たかやれやれ」みたいな態度を取られた。
しかし僕としても、心当たりはないので
「いやマジで乗ってないっす!え、ポケットとか見ます?触ってもいいですよ?自転車のカギとか持ってないですもん!」
と少し早口になりながらポケットの中身を見せていった。かなり軽装だったから、楽な作業だった。
出しながら、
(アレ、でも、自転車の鍵を持っていないからって、“自転車に乗っていない証明”には、ならないか?
数字でロックするタイプのチェーン使ってるかもしれないもんな)
と一部冷静になりつつも、今自分にできる無罪証明はしておくべきだなと思って全て出した。
全部出しても、警察官は納得していない。
「だって見たんだもん」みたいな顔をしている。
トトロいたもん、と喚き散らかすメイちゃんを思い出した。
トトロは本当にいるかもしれないが、僕は自転車には触ってすらいない。
すると、警察官がもう1人やってきて(囲碁将棋の文田さんみたいな、優しそうなイケメン)、元からいた警察官と顔を見合わせ、
(ウン、さっきのはコイツで間違いないな)(ウン)
とアイコンタクトを交わしていた。やかましかった。
そして先ほどの調子で尋問が再開された。
なんなんだこれは。
目の前で行われた犯行の犯人を、警察官が二人揃って見間違えたとでも言うのか。それは果たして、あり得ることなのか?
ここでもっと冷静になっていれば、ミステリ小説によく出てくる、自分の推理をひけらかしたいキャラみたいに、
------------以下妄想------------
「飲酒運転を疑っているんですよね?
僕が酔っ払って自転車に乗ってて、交番が見えたから慌てて自転車を停めて、何事もなかったかのように歩いて帰ろうとしている風に見えたんでしょう?
でも僕は自転車には乗っていないし、お酒だって飲んでいません。
その自転車のところまで一緒についていってもいいですが、それが僕のモノであるという証明も、僕のモノでないという証明も、できませんよね?
唯一、自転車の鍵を僕が持っていれば、クロですけど。持ってないですし。
本当に身に覚えがありません。
なんなら、裸になってもいいですよ。
それか、カギを口から飲み込んで、胃に隠しているかもしれないですからね、嘔吐、しましょうか?
僕、できるんですよ。特技なんです。駅の汚い男子トイレを思い出すと、自然にゲ○吐けるんです。
なんでアレは、あんなに汚いんでしょうね。
やりましょうか?
僕のアヌスもお見せしますよ。ケツの穴に入れて隠しているかもしれないですから。
ご要望とあらば、喜んで披露します。
…最もフィジカルで、最もプリミティブで、そして最も...フィティッシュな、僕の菊門をねェ。」
-----------妄想おわり------------
くらいは言えたと思うんだけど、
冷静じゃなかった。
目の前で自分に絡んでくる警察官の人数が倍になると、善良な市民ならば誰だって狼狽えてしまうだろう。
実際僕は、気分が変に高揚して、「え、これってもしかして、職務質問ですか?えっすごい!人生で初めてです!」
と、イタすぎる素人になってしまったし。
(我ながらキモすぎて、後から猛烈に反省した。
こんなんじゃあ、月曜から夜ふかしのインタビューを受けることがあっても、確実にオンエアされないだろう。)
でも、本当にワクワクしていた。
自分に非がない、冤罪での職務質問なんて、なんてオイシイ体験だろうか。
結局、身に覚えもないのだし、自転車の鍵も持ってないし、何より僕がはしゃぎ出したので、
職務質問は終わった。
ごつい警官から何度も謝られた。
気分が高揚していた僕は
「こちらこそ、紛らわしくてすみません。ありがとうございました。」
と、つまらなすぎる受け答えをしてしまった。
後からまじで死にたい、恥ずかしい、と思った。
皆様も、急な職務質問をされた際には、冷静に、聞かれたことだけに答えてください。
おわり。
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